どんな農家が有機栽培に取り組んでいるのか

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農水省は2021年5月、2050年までに有機農業を耕地面積の25%に当たる100万ヘクタールにするなどを目標とした「みどりの食料システム戦略」を決定しました。また、ロシア・ウクライナ侵攻の影響で肥料や飼料が高騰し、生産資材の輸入依存リスクが露呈しました。

有機農業に注目が集まる中、「有機農業等の取組に関する意識・意向調査」を基にどのような農家が有機農業に取り組んでいるのかについて見ていきたいと思います。

水稲が最も多い

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有機栽培に取り組んでいる農家のうち44%が水稲。地域の慣行栽培より化学合成農薬や化学肥料を50%減らした「特別栽培米」や、農薬を使わない栽培に力をいれる農家が増えてきています(無農薬といった表記は禁止されています)。有機栽培が最も進んでいる品目といえるのではないでしょうか。

次いで、野菜が39%。地域でエコ認証を設けるなど、差別化の一手として有機栽培が進んでいるように感じます。

そして果樹が19%と続きます。直売所などでは減農薬栽培したかんきつ、梨、ブドウを見たことがあります。

  • 有機農業に取り組む理由について(複数回答)
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「農産物を差別化したい」「経営コストを削減したい」という点で取り組農家が多いようです。有機農業を推進するためには、「単価を高く販売できる」や「生産コストの削減につながる」など経営的なメリットがないと広がらないでしょう。環境にやさしいとか持続可能な農業など高尚な理由が語られますが、稼げないことには話にならないと思っています。

有機農業の取り組み年数は「10年以上」と回答した割合が71・3%と最も多く、「5~6年」が12・2%、「7~9年」が8・7%でした。

栽培面積は中~小規模がほとんど。売り上げも500万円未満

1ha以下がメイン
主要品目で500万円以下がおよそ7割

各品目ごとの人数を算出し、栽培面積・売り上げの構成比をグラフにしました。

どの品目でも1ヘクタール以下の栽培がメイン。そして、売り上げはおおよそ7割以上が500万円以下ということが分かります。人手不足の中、慣行栽培より手間や時間がかかることなどが規模拡大できない要因と推察されます。(このあと規模拡大についてのアンケート結果も掲載してます。)

上位3品目の内訳を詳しく見ていきたいと思います。

  • 水稲

水稲で、有機農業に取り組む農家は2647人の内の1164人(44%)。

そのうち6割以上を50アールから5ヘクタールで占めています。そして75%が500万円未満の売り上げとなっています。米を慣行栽培で大規模に生産する農家は、家族経営でも30ヘクタールほど栽培したりします。しかし、有機では5ヘクタール以上が8%と少ないです。手間がかかり規模拡大できないことや、大規模農家がほとんど参入していないということが読み取れます。

  • 野菜

野菜で、有機農業に取り組む農家は39%の1032人。

1ヘクタール未満が7割以上。売り上げは7割が500万円未満。当然ですが、水稲よりも小規模で取り組む農家が多いようです。個人単位での取り組みが中心ということでしょう。

  • 果樹

果樹で、有機農業に取り組む農家は19%の約502人。

野菜同様に7割以上が1ヘクタール未満で、売り上げも7割が500万円未満となっています。

そもそも、桃や梨などの果樹は販売量の減少に伴い単価が上昇する中、手間と時間がよりかかることや病害虫リスクがより高まる有機農業をするメリットがない点も進まない要因の一つ。水稲などに比べて機械化も進んでいないため、慣行栽培でも大規模化は難しいです。

ちなみに、耕作する農地面積の6割以上で有機農業をする人が59%。慣行栽培との合わせ技で有機農業に取り組むというより、有機農業をメインに経営している方が多いようです。

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有機栽培者の8割以上が規模の維持もしくは縮小を希望

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有機農業に取り組む農家の82%が拡大を希望していません

  • 有機の農業の面積を現状維持または縮小したい理由について
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化学肥料や化学合成農薬を使わないことで生産資材は安くできることがメリットとして想像されますが、意外にも使わないことで別の資材が必要で高くなってしまうようです。

JA出荷がメインの場合、そのJAで有機農業を推進していなければ産地のメリットを生かせない上、自ら販路を探さなければなりません。また、収量を上げるのが難しいとなると経営的にはやりにくいと言えます。

まとめ

ポイントは次の通りです。

  • 有機農業では水稲での取り組みが多い
  • 経営面積は大きくなく、売り上げも500万円未満が多い(大規模農家では導入されていない)
  • 有機農業をメインに経営する方が大半
  • 8割が規模拡大を希望していない

※「有機農業等の取組に関する意識・意向調査」

2020年農業センサスにおいて、有機農業に取り組んでいると回答した農家4000人、流通加工業者4000事業者を対象に、2021年8月から9月下旬にかけて有機農業等の取組に関する意識・意向調査について実施。農業者2647人、加工業者1201事業者から回答を得た調査。

この記事を書いた人

農業界に一石を投じようと、脱サラした20代。
「産地統一」という無謀すぎる目標を掲げて産地に乗り込む。
地域おこし協力隊という制度の元、研修中。2025年10月からの独立に向けて栽培技術・経営を学ぶ。
理解=説明可能
アウトプットの場としてブログを書いています。

※イニシャルDに登場する「PROJECT.D」のオマージュです。

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