野菜農家が生き残るために必要な戦略の一つが、外食や総菜などの加工・業務需要への対応です。
野菜は国内消費が大前提。人口減少や高齢化による需要減は避けられません。相場は天候で乱高下し、現状でも供給が需要を上回って、価格の下落も発生しています。
世界情勢の影響による資材高騰や、さまざまな企業で賃上げなどが起きています。ロシア・ウクライナ侵攻が落ち着いた後も、それらの要因から経費が元に戻ることはなさそうです。
経費高、相場は乱高下。不安です。
そのため安定した供給先が必要です。そこにぴったりなのが加工・業務向けです。家庭向けに比べて国産割合が低いです。消費者の食の環境も変化し、総菜などの中食やカット野菜・食材キットなどの消費が伸びています。
そんな加工需要に対応した産地や品種開発の事例を紹介します。
野菜の未来は加工・業務需要にあり
国内野菜の仕向け先は今後、加工・業務需要の比率が高くなると想定されています。
以下は国内の野菜が、家庭と業務それぞれにどのくらい仕向けられているかを表しています。

家庭消費用から加工・業務用へシフトしていることがわかります。
家庭向け消費のほぼ全量は国産ですが、加工・業務需要は7割程度です。3割は輸入してます。仮に野菜を増産した場合、入り込む余地があるのは加工・業務需要といえそうです。
輸入品は大量に、定量を、低価格で供給できる面から好まれています。
群馬県 キャベツの周年供給で加工・業務需要を強化

キャベツの一大産地、群馬県。
全国一の収穫量で、夏秋の産地です。
キャベツはお好み焼きや餃子などの調理加工から、サラダや揚げ物の付け合わせなどさまざまな用途が年中あります。
その需要に対応しようと、JA全農ぐんまは2016年に加工用施設「青果物一時加工センター」を設置しました。ここでは外葉や芯をくり抜く加工を行います。
業務需要の対応に向けて、全農ぐんまでは、嬬恋村などの中山間地以外での生産振興も進めました。端境期だった年末から春先までの生産も進んでいます。日本農業新聞によると、メインの「夏秋以外で5年で倍以上に拡大している。」そうです。
首都圏へ供給されるキャベツは、春は茨城、千葉から、夏秋は群馬、冬は愛知と産地リレーをするのが基本です。群馬に周年供給されると他産地は苦しくなりますね。どうしていくのか注視したいです。
加工に適した品種を カネコ種苗

野菜や花きの種や苗などを販売するカネコ種苗(前橋市)では、加工・業務に必要な特性を持つ品種開発に取り組んでます。
今回例に挙げるのは、キャベツ・枝豆(エダマメ)です。
・キャベツ
加工・業務用に好まれる特性は「巻きがよい」「葉が硬い」の2点です。この2点をクリアできるのが寒玉系と呼ばれるキャベツです。
しかし、4から5月にかけては気温の影響で出荷量がまとまりません。加工・業務用に必要な「量」を確保できない課題を抱えていました。
そこで同社が2014年に「新緑」という品種を発表しました。
北関東で5月中旬、南関東より西側では5月初旬に収穫できるようになりました。また、葉は厚く球締まりが良いという特徴を兼ね備えています。ただ、裂果しやすい面もあるようです。
・枝豆(エダマメ)
加工・業務需要に必要な要素は、「収量性」「機械収穫」「大規模生産」です。
それを可能にした品種が「初だるま」。
上記の点を重要視して開発した品種で、大量に収穫して茎からさやを外す作業をする冷凍食品などに向いています。
倒れにくく、株の下から上までのさやの肥大が良くそろうため選別の作業もしやすいそうです。
また、栽培適期が広いため収穫の重なりや端境期ができにくいことから安定的な出荷も見込めます。
その他、レタス「マルチリーフ」・タマネギ「カロエワン」・ハクサイ「おもむき」などもあります。
埼玉県 カットネギの加工原料に

埼玉県北部地域のTOSIファームは、中国産から切り替える外食・中食事業者の要望を受けて、長ネギ・青ネギのみを生産しています。
国内産でも安定供給と低価格を求められるため、対応しようと農水省の生産基盤強化事業(2018年時点)を活用しました。
産地では
- 国産が品薄になる5~7月の出荷を強化
- 種苗メーカーと、土地にあった品種選定
- 最も生産コストがかかる除草作業の機械化で人件費を低減
- 定食 、弓うち 、土あげ 、収穫などの生産工程を機械化
などに取り組んでいます。
結果、単収は3・3トン(2013年)から3・63トン(2017年)に増加。
実需ニーズに応じて生産面積を約40ヘクタールから46ヘクタールにまで拡大しました。
今後も需要に応じて、単収の向上や生産面積の拡大を目指すそうです。
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